著者
植原 亮
出版者
関西大学総合情報学部
雑誌
情報研究 = Journal of informatics : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
no.44, pp.1-13, 2016-08

貨幣のような制度的対象はしばしば特別な存在であると見なされる.制度的対象についての有力な見解である集団的志向説によれば,それらは人々の集団的志向性なしには存在しえないがゆえに,他の通常の人工物とは存在論的に異なっており,またその存在論な固有性が認識論的・方法論的な独自性に反映されているという.本稿で目指すのは,制度的対象に対するこの種の哲学的態度のやめ方を描き出すことである.そのためにまず,集団的志向説を批判的に検討する.次いで,その代替的な見方として「ふるまい説」を提出し,その妥当性を示すことを試みる.そして最後に,ふるまい説について想定されるふたつの疑問に応答する.Institutional entities such as money are often perceived as "special" objects. According to a dominant view about them, called "collective intentionalism", institutional entities are ontologically distinct from other ordinary artifacts because they cannot exist without people's collective intentionality, and this ontological distinctiveness is reflected in their epistemological and methodological uniqueness. This study aims to show how to challenge such philosophical attitudes toward institutional entities. Firstly, it critically examines collective intentionalism. Secondly, it presents "behavior theory" as an alternative view to collective intentionalism and tries to show its plausibility. Finally, it addresses two possible questions about behavior theory.
著者
江澤 義典
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 = Journal of informatics : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
no.49, pp.3-10, 2019-01

わたしたちは日常的な知的活動において,手元の電子機器(パソコン,タブレット端末,スマートフォンなど)にアクセスすることが多い.ところが,都合の悪いニュースなどを「フェイクニュースだ」と決めつける政治家の発言やSNSへの匿名の無責任な書き込みなどに,多くの市民が迷惑している.インターネット利用が普及した現代において,わたしたち市民にとって十分に信頼できる情報を得るにはどのような工夫が必要なのであろうか.すなわち,知的な装置をわたしたちの生活空間で活用するために検討すべき情報倫理の課題にも多くの関心がよせられている.ここでは,具体的な個々の問題解決が必要なときに,適切な相談相手(バディ)を得るためには社会的な知のネットワークの構築・維持が欠かせないことを明らかにする.
著者
伊藤 俊秀 宮澤 樹 山本 恭輔
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 = Journal of informatics : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
no.50, pp.1-10, 2020-01

二酸化炭素の排出が地球温暖化にどの程度影響しているかは議論の余地の残るところではあるが,現時点で商用化されている水素自動車(燃料電池車)は走行時に二酸化炭素を排出しないので,地球温暖化防止に有効であると広く認識されている.しかし,水素は,工業的には天然ガスから製造されているので製造時点で二酸化炭素が排出される.そこで,水素自動車が実質的に排出する二酸化炭素量を推計し,ガソリン車,ハイブリッド車,電気自動車が排出する二酸化炭素量と比較して考察した.ここで,電気自動車については発電時の排出量であるので,各国の電力ミックスに大きく依存する.比較考察した結果,日本の場合,水素自動車と電気自動車の二酸化炭素排出量は,現時点ではほぼ同量であるが,政府が2030年に目標としている電力ミックスで考えるとむしろ電気自動車の方が少なくなることがわかった.したがって,水素ステーションなどに膨大な設備投資を行って取り扱いが難しく非常に危険な水素で走行する水素自動車の普及を推進するより,現時点でもかなり普及している電気自動車の更なる普及を促進する方が合理的である.本稿では,最後に,水素の製造や発電の際に排出される二酸化炭素の地中への貯留手法であるCCSの現状と実現性についても言及した.
著者
名取 良太 岡本 哲和 石橋 章市朗 坂本 治也 山田 凱 ISHIBASHI Shoichiro 坂本 治也 SAKAMOTO Haruya 山田 凱 YAMADA Gai
出版者
関西大学総合情報学部
雑誌
情報研究 = Journal of informatics : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
no.44, pp.31-42, 2016-08

地方議会は,民主主義において重要な役割を担う存在である.しかしながら,日本の地方議会は,多くの市民から信頼されず,その役割を十分に果たしていないと考えられている.ところが,「地方議会が十分に役割を果たしていない」と主張するための定量的な根拠は,ほとんど示されていない.その原因の一つは,地方議会に関する膨大な資料から,適切なデータを取得するのが困難なことにある.そこで我々は,会議の開催状況や議案の審議過程,各議員の属性・発言内容・議案への賛否態度などを,定量データとして格納した地方議会データベースを開発した.本論文では,会議録や広報紙などから,どのようにデータテーブルを作成したかを説明するとともに,データベースを活用してどのような分析が可能になるかを紹介していく.Although the local assembly is one of the key organizations supporting the democratic system, many Japanese recognize that the local assemblies do not perform their expected roles. However, there is no quantitative evidence for this inadequate performance due to the difficulties in collecting quantitative data about the local assemblies. In this study, we explain the database system that we developed regarding local assemblies and present the data files for use in quantitative analysis.